「矯正歯科治療契約書」に関する説明−5

【デンタルローンを使われる場合】
デンタルローンを使われる場合で、ローン期間中に治療を中止することになった場合には、抗弁権の接続がされる可能性に十分に留意してください。

抗弁権の接続とは

  • 患者さんがローン会社とローン契約を結んでローンで借り入れたお金で治療を支払う場合、原則として患者さんとローン会社との間の契約になり、医療機関は契約当事者にはなりません。ローンが実行されると、患者さんが借り入れた治療費は、ローン会社から直接医療機関に支払われます。その後、万一、ローン期間中に治療を中止することになった場合でも、ローンの残額は患者さんがローン会社に支払い続けることになります。このような場合、患者さんは、治療を途中で中止していますので、未治療分の治療費の支払いを拒むことができます。この権利のことを抗弁権と言います。
  • 現在は、この抗弁権を患者さんが主張されてもローン会社は通常は応じませんが、訴訟になった場合には認められる場合もあります。
  • 特定商取引法による特的継続的役務に矯正歯科医療が指定されると、それに関連して抗弁権の接続が認められ、患者さんはローン会社にローン残額を支払わないこと、もしくは未治療分のローン支払い金額の精算を求めることができ、ローン会社はそれに応じなければなりません。このことを「抗弁権の接続」と言います。
  • 抗弁権の接続がされると、ローン会社は、医療機関に対して既に支払った医療費の内、未治療分の治療費の返還請求を行います。
  • 特的継続的役務に矯正歯科医療が指定された場合には、この契約書にも抗弁権の接続についての記載が必要になります。

 
【治療の終了】

  1. 治療の終了は、「別紙の矯正歯科治療契約書の9-2」に示すように、通常の治療終了以外に患者さんが無断で来院しなくなった場合にも適用されます。
  2. 一旦治療が終了した後に、再開を希望されてきた場合にも請求権が10年間存在しますので、慎重に対応してください。個別に判断することになりますが、後戻りが主訴の再治療を希望された場合には、治療終了時に十分な説明がなされたかどうかで判断されますので、治療終了時にも十分に説明を行ってくださることを推奨します。
  3. 「別紙の矯正歯科治療契約書の9-4」に示すように、担当矯正歯科医師に不測の事態が起こって、医療に従事できなくなった場合も想定して、日頃からの金銭的、人材的な準備を並行して行っておいてくださることを推奨します。
  4. 治療を終了する場合には、その時点での状況および治療前後の治療効果・治療による変化を説明してください。その上で、今後起こりえる事柄を患者さんに十分に説明してください。その内容を記載した書面を2部作成して患者さんと医療機関の双方で確認し、患者さんの確認署名を貰い、1部を患者さんに渡すことを推奨します。

 
【治療の中断】

  • 治療の中断は、治療の終了・中止とは分けて取り扱ってください。

 
【保定と後戻りについて】

  1. 保定期間は可及的に長めに説明することを推奨します。
  2. 保定装置を継続して使う場合の、メンテナンス、注意事項についても十分に説明してください。

 
【署名欄に関して】

  1. 法的には契約書に押印、捺印しなくても署名だけで有効です。
  2. ただし、捺印・押印したほうが患者さんも医院側も自覚にも繋がりますので推奨します。印鑑がない場合には、次回来院時に持参することでも可です。
  3. 署名は、個人確認のために行いますので、念のため、保険証、運転免許証、パスポート等で、個人確認をなさっても構いませんが、消極的にしか推奨しません。
  4. 患者さんが未成年の場合には、保護者の同意が必要ですので、患者さんと保護者の両方の署名が必要です。ただし、保護者が代筆することは構いません。患者さんが未成年の場合でも、できるだけ本人の署名をしてもらう方が自覚に繋がりますので、本人署名を推奨します。その場合であっても、保護者の署名は必要です。
  5. 患者さんが成人の場合でも、生計が独立していない場合、例えば学生の場合には、未成年と同様に保護者の同意を求めてください。
  6. 署名に対して捺印、記名に対して押印と表現するとご理解ください。
  7. 医院側は事前に、矯正歯科医院の名称、開設管理者名、担当矯正歯科医師を印刷しておいても、ゴム印で押しておいても構いません(記名)。
  8. 公益社団法人日本矯正歯科学会認定の認定医、臨床指導医(旧専門医)等の資格をここに記載しても医療広告にはあたりません。

 
【契約書を交わす際のポイント】

  1. 同じものを2通作って、患者さんにお渡しする方の契約書の書面中の特に重要な箇所に、マーカーペンなどでラインを引く等の確認がなされた痕跡を残すことも、紛争を起こしにくくする一法です。
  2. 1通作って、署名された方を医院が保管して、コピーを患者さんに渡しても構いませんが、できる限り2通作って、相互に署名をされることを推奨します。

 

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